北広島町人口:1万7000人
テーマ「防災行政無線の廃止に伴う新たな情報伝達手段」
2万人弱の町ですが、館山市に比べ約6倍という広大な面積を有します。広島市はさすがの大都市でしたが、北広島町に到着すると「よぅ来んさったねぇ」と温かい方言でお迎えがありました。
さて、視察の目的として前提をまとめます。
館山市は、令和元年房総半島台風の検証にもある通り、災害時に防災無線がほぼ機能しませんでした。場所によって平時も聞こえづらいです。現在は、同じ内容が安全・安心メールやLINEでも通知されていますので、スマホを持っている方にとってはほぼほぼ不要になっていると思われます。
その中で、老朽化した子局の更新が今年度から始まりました。その数なんと120基。1基あたり800万円なので、総額10億円にもなります。今年度はすでに予算化されており、これから毎年約8000万円が更新経費として計上される予定です。
もちろん防災無線もあるにこしたことはないのですが、その効果や他の代替手段も十分に検討しないで、前例踏襲で更新という話にはならないと思います。
そこで、実際に防災無線を「廃止」した北広島町をうかがうことになったわけです。
北広島町が防災無線を廃止した背景としては、法令によってR4年でアナログ周波数の使用が終了となったこと(館山市はすでにデジタル化済み)、老朽化した機器の部品調達ができずに修理が困難となったことにあったそうです。
総務省消防庁からも町に有効なシステムの考え方に助言をしてもらって検討を進めてきました。ちなみに総務省は基本的に防災無線は「設置すべし」なので、廃止を勧めたりはしません。
ただし、「屋外拡声器は、大雨の際には聞こえにくいため、戸別受信機のように確実に情報が届く方法が必要である」としています。
そこで、整備したのが以下の手段。
・ケーブルテレビ経由の音声告知放送
・行政情報アプリ
・ホームページ
・広報誌
・公式LINE
お聞きして同町に特徴的なのは、H19年以降に全町的にケーブルテレビ事業に取り組んでおり、R2.3年で光ファイバー網が整備され、全世帯中76%に戸別受信機が整備されていることです。
ケーブルテレビ事業は「きたひろネット」と呼ばれ、テレビ放送・ラジオ放送・音声お知らせサービス・インターネットサービス・加入者間無料通話のIP電話サービスがセットになっています。
この当時から防災無線廃止は念頭に置いており、導入費用や運用費用を抑えて、将来負担がかからないシステムづくりを検討してきました。
また同町には働く外国人も多く住んでおり、多言語での情報発信も問われてきました。
そして訪れたのが、防災無線のアナログ周波数終了の通知。これを機に、アプリ開発を進め、公式LINEを開始。防災無線の情報提供は、戸別受信機への発信に置き換えることとし、防災無線の廃止を決めました。
きたひろネットは、R4年に「ちゅぴCOM」に譲渡され、現在は民間が運営しています。
年度当初に4地域を巡回する行政区長会を設けており、第3四半期には同じく4地域を回り、広く一般町民を対象に「まちづくり懇談会」を開催している同町。(まずこの巡回が素晴らしいです)
この中で、防災無線の廃止に伴う変化を丁寧に進めてきたといいます。
廃止後に、大きなトラブルはありません。一番大きな声は、「チャイムがなくなって寂しい」ということ。確かに、防災無線がなくなると館山も昼や17時のチャイムがなくなってしまいますね。
さて、同町の防災無線廃止を本市の参考にするためにどう捉えればよいのか。ケーブルテレビ事業など経過が異なるので、一概に比較が難しいところです。
ただ、回線の維持に各家庭、最低2000円かかりますので(ネットいれるとさらに上乗せ)、住民が防災無線とは異なる形で費用負担している仕組みといえるかと思います。
この点が重要なのですが、館山市でも防災無線の更新は、市民にとって無償ではありません。総額10億円の費用は、税金、しかも国や県ではなく市の一般財源で支払われます。
ということは、当然、防災無線は市民がみんなで費用負担しているということです。
アプリの開発は、その他のシステムを含む経費として660万円で、年間178万円のランニングコストがかかっています。
ただダウンロード数は2800と伸び悩んでおり、公式LINEの5570人が上回っています。やはりどの方も、普段使っているツールで情報を受け取りたいのでしょう。
こうしたツールはスマホの所有が前提となるので、スマホをもっていない方、何らかの理由で使えない方には個々に対応が必要となります。
今後の財政を踏まえた効果の高い防災を考えるとき、スマホの経費と防災無線の更新費との比較も重要な参考指標となるのではないでしょうか。皆さんはどう思いますか?
北広島町危機管理課の皆様、ご多用の中、視察の対応誠にありがとうございました!