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岡山県美咲町「小規模多機能自治」視察レポート

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2日目は、小規模多機能自治や行財政改革で全国的に注目される岡山県美咲町を訪問しました。美咲町は「賢く収縮するまちづくり」を掲げ、人口減少社会に真正面から挑む先進自治体です。青野高陽町長をはじめ、地域みらい課、こども笑顔課の皆さまにご対応いただきました。

この1年、私自身、地域運営組織(RMO)を学ぶ中で青野町長と直接お会いできたのは光栄でした。やはり毎日のように視察が入っているようです。本当にお忙しい中、丁寧なご説明に感謝申し上げます。

■ 美咲町の概要と現状

美咲町は岡山県の中央部に位置し、人口約13,000人(館山市43,000人)、面積232㎢(同110㎢)。合併から20年を迎える小規模自治体です。全国の地方自治体と同じく少子高齢化と財政縮小に直面していますが、7年前に青野町長が就任してから、その対応のスピードと徹底度は群を抜いています。

町のスローガンは「賢く収縮するまちづくり」。行政・地域・学校を三位一体で再構築し、限られた資源を持続的に生かす改革を進めています。町長自らが「人口を増やすよりも、絆を取り戻す」と語り、数ではなく“人の交わり(人交密度)”を重視する哲学が全ての施策に貫かれていました。

■ 子育て支援と少子化対策 ― 出生率2.23の背景

令和3年度に合計特殊出生率2.23を記録した美咲町。全国平均1.30台の中で突出した数値です。この要因について、「明確な要因は不明だが、子育て支援施策で2子目、3子目が生み育てやすい環境が大きいのではないか」と説明されました。

町はスクールバス9台を運行し、山間部の通学環境を支えるほか、保育料の大幅な減免、水道基本料金助成、育児支援手当など、地域特性に応じた支援を展開しています。民間企業とも連携し、「子育て応援自動販売機」や「こども笑顔基金」を創設。寄付金が子育て施策に還元される仕組みを整えています。

一方で、若い女性や子育て世帯の減少により、今後の持続可能性には課題もあり、補助金制度の精査や民間連携の拡充が鍵となっています。

■ 小規模多機能自治の推進

美咲町のRMO構想は、町内81の自治会を13エリアに再編し、「まちづくり協議会」を設立して地域運営を担うものです。“自分たちのことは自分たちで決め、行う”を原則とし、行政依存からの脱却を図っています。

美咲町HPよりhttps://www.town.misaki.okayama.jp/soshiki/matidukuri/29248.html

当初は「行政の責任放棄」との反発も強かったそうですが、現在は13地区中9地区が機能的に活動。残る地域でも、他の地域が進んでいる状況をみて意識変革が進みつつあります。各協議会では、防災マップ作成、空き家リフォーム、福祉弁当の配食、獣害対策、地域新聞の発行など、地域課題に即した活動が生まれています。

美咲町資料より

各協議会で、町の総合計画に当たる「地域みらい計画」を策定。行政主導は一切なし、住民の手でつくられています。

住民自身が設問を考えて実施する「地域アンケート」は中学生以上の全員に配布され、回収率は驚きの90%超。行政のアンケートは一般的に20〜30%の回収率ですが、住民が主導し、住民が回収することで、これほどまでに参加意欲が変わるのです。

私は「どのように13のエリアを決めたのか」と質問しましたが、やはり昭和30年代の旧村や旧小学校区などを参考にしたとのことでした。一方で、まちづくり協議会の人口規模は、300人〜3000人と幅広く、エリアの区分けはその後のコミュニティ活動に影響を及ぼしているとのことです。

館山市も10地区が行政区として昔からありますが、これにとらわれずにコミュニティ活動が行き渡るエリアを念頭に検討を進める必要があると感じました。

■ 行政改革と“賢く収縮するまちづくり”

行財政改革では、「統廃合」「最適配置」「再投資」という明確な方向性が示されています。町はすでに36施設62棟を処分(解体・売却・貸与)し、公共施設の総量を大胆に削減。代わりに「多世代交流拠点施設」を整備し、教育・福祉・防災・交流の機能を一体化しました。

庁舎、図書館・公民館・保健センター・社会福祉協議会が入居する生涯学習センター、物産館などが集約された多世代交流拠点【みさキラリ】 画像:プレスリリースから引用

学校も再編し、旭学園・柵原(やなはら)学園という義務教育学校(小中一貫9年制)を設立。学校を地域の核とし、住民・保護者・子どもが協働で地域を支えるモデルをつくっています。

やはり公共施設の統廃合では反対意見も根強くあったそうです。しかし、「RMOで地域のことを考える人が増えたので説明を聞いて、納得してくれる人が増えた」といいます。

縮小社会は人々のマインドも萎縮するもので、不平、不満が多くなるものです。公共についての見識が深まることで、行政と住民がともに建設的な議論を進めること、これこそRMOの核であり、市民協働の本質といえます。

■ 地域交通と福祉をつなぐ「黄福(こうふく)タクシー」

公共交通では、町民の移動支援を目的に「幸福タクシー(黄福タクシー)」という独自制度を運用しています。

これは、タクシー料金の一部を町が補助する仕組みで、町内での利用は片道350円(最長42kmの端から端でも1,000円)、町外に出る場合も料金の半額で利用できます。

従来のバス路線を廃止し、この仕組みに一本化したことで、住民がドア・ツー・ドアで移動できる利便性を確保しました。車を持たない高齢者や障がい者、妊婦などの外出支援にも活用されており、障がい者や妊婦の利用時は片道100円という特別料金が設定されています。

みさキラリにある物産館 美咲町はTKG発祥の町としても知られる

利用制限はなく、通院や買い物だけでなく、飲食やイベント参加にも利用可能。年間事業費は約8,000万円で、町民負担と合わせると1億5,000万円規模の経済効果があり、タクシー事業者の給与改善にもつながっています。町は業者への直接補助ではなく「利用者への助成」という形を取ることで、地域の交通インフラと雇用の双方を支える仕組みを実現していました。

■ 地域×教育の融合 ― “学びの地産地消”

旭学園や柵原学園などの義務教育学校では、地域学習を核としたカリキュラムを導入しています。1年生から9年生まで「地域を学び、地域に提案する」学びを継続。住民が授業に参画し、子どもたちは地元の空き家改修や農業体験、防災ワークに取り組みます。

地域で作られた「まちづくり協議会」と学校のコミュニティスクールが連携し、教育と地域運営が一体化している点も特筆されます。スクールバスを使って子どもたちが地域に出て、郷土学習や地域住民との交流が活発化しており、まさにコミュニティスクール(=学校を核とした地域づくり)のモデルケースです。

■ 職員改革と組織文化の転換

町長は「一番難しいのは職員の意識改革」と語ります。50代管理職層の意識変化は容易でなく(ほとんど不可能と語っていた)、町では若手職員を中心に「地域課題共有会議」を導入。地域の課題解決への取組みを支援する関係各課が横断的に連携して学び合っています。

これにより、行政と地域の垣根を越えた「共働の文化」が芽生えつつあり、若手職員の定着率や地域参画意欲も向上しているとのことでした。

■ まとめ ― 対話と合意形成の覚悟が問われる

美咲町の改革の本質は、“縮小”ではなく“最適化”。「人も財源も減る中で、どう持続可能な地域を築くか」という問いに、全国の自治体が直面する中、美咲町はその答えを実践で示しています。

余談ですが、「青野町長は、誰よりも地域に出て帰ってこない(笑)」と職員さんが苦笑する場面が印象的でした。

町長も「ちゃぷちゃぷ」が大事と語っていました。この地域の方言で「おしゃべり」を意味するそうです。

こうした前例のない新しい事業を実現するのは、実はアイデアや洗練された事業計画以上に、住民や議会との合意形成が最も高いハードルとなります。そして、何より合意形成を職員任せにしていたら誰もついてこないでしょう。

この点、誰よりも外に出る町長というお話は、岩手県紫波町の藤原町長を思い起こさせました。同町もまちづくり先進地ですが、これを実現するには、町長が「ぶっかれテープレコーダー」(ぶっ壊れたテープレコーダー)と呼ばれるほど、同じことを何度も何度も地域住民に訴え続けたと伝えられています。

館山市でも小中学校再編計画の策定にあたっては、何十回と住民との協議が重ねられました。

縮小というとマイナスイメージに捉えられがちですが、将来世代に未来のあるまちづくりを推進するためにも、今を生きる我々が、しっかりと研究して、住民との対話を繰り返すことが何より重要です。

美咲町の“自立と共助”の地域モデルは、全国の自治体にとって勇気を与える先進事例といえます。